白銀楼物語 スピンオフ (更新中)

解けぬ氷を描く画家 4 (完)

 ←同性間の究極の愛を描いた『江ノ島プリズム』――修太と朔が友人以上であるという説 →解けぬ氷を描く画家 3
 やるせない気持ちを紛らわすように早足で歩いて最寄駅の近くのスーパーに行くと、流はいりもしない日用品やら食品やらを買い込んだ。レジを通って袋に力任せに買ったものを詰め込んでいる最中に、彼はふと我に返り、そして気づいた――自分は、怒っている。この強い感情は悲しみや切なさではない、怒りだ、と。
 流は思わず手を止め、天を仰いだ。自分が最も毛嫌いしているはずの、そして、自分には無縁だと思っていたはずの欲望まみれであることに気付いたからだ。彼は今確かに、自分の物であったはずの相手の“背信”に怒っていた。それがどれだけアンフェアなことであるか、第三者の立場にいるときは理解していた。金に物を言わせて本来触れる権利の無い相手の身体に無粋にも触り、あまつさえ己が快楽のためにそれを使うという行為をする、恥ずべき遊客に傾城が恋をする可能性など万に一つもない、ということを、客観的には理解しているつもりだった。しかし翻ってわが身のこととなると、どうも人間はとたんに盲目になるようだった。
 そうだ、自分を搾取する憎むべき客の流に、敦也が心惹かれるはずがない。自分を美しいと崇めて徹底的にモノ扱いする客に、傾城が恋するわけがないのだ。そんなのは客側に都合の良い夢物語に過ぎなかった。
 もし本気で敦也と向き合いたいのなら、登楼すべきではなかった。もっと別のやり方で出会うよう考えるべきだった。流は安直すぎたのだ。安直に相手から性を買ったことがそもそもの間違いだった。
 己の愚かさにやっと気づいた流は、怒りの波が速やかに引いてゆくのを感じた。彼には怒る権利などない。敦也を所有する権利も、支配する権利も、そして、描く権利もなかった。
 流は、手遅れになる前に気付いてよかった、と思いながら再び顔を俯けて商品の袋詰めを再開した。先ほどよりも丁寧な手つきでそれをやり終えると、二つの袋を持ち上げて出口に向かおうとした。そのとき、何気なく目をやったガラスの向こうに和装姿の麗人を見つけ、流は口を開けた。後を追ってきたらしい信はその非の打ちどころのない顔に案じるような表情を浮かべてこちらを見ていた。それを見て、一瞬嫉妬の炎が燃え上がりかける。自分も彼のように美しければ、あるいは完璧な肢体を備えていれば敦也にああいうふうに笑顔を向けてもらえたのだろうか、また、彼のように白銀楼に入っていたら、敦也の隣に立てたのだろうか、などとくだらないことばかりが頭に浮かんでは消えてゆく。流は必死に邪念を振り払おうとしながらスーパーから出て、入り口付近で待っていた信と合流した。用心棒を従え、紅い和傘をさして友禅を身に纏った彼は普通の日常の世界で思いっきり目立っていたが、本人は人々の視線を意にも介していなかった。
彼は流の異変を察知したのか、黙ったまま一緒に歩き出した。駅前の商業施設が多いエリアを離れると、急に彼のゲタの音が高く響くようになった。大通りから住宅街に続く小道に入った時点で流は腹をくくって口火を切った。
「寒くなってきたねぇ……ゲタで足寒くない?」
「いや、そうでもない……足袋履いてるから」
「そっか、菊野さんとこって足袋オッケーだもんね」
「信でいい」
 ほっとしたように会話に応じる相手に、流は頷いた。
「しんくん……どんな漢字書くの?」
「信じるの信、だ」
「へぇ……いい名前だね」
「母親がつけてくれたんだ」
 信は少し寂しげに答え、懐かしむように上を見上げた。「優しい人だった」
 流はそこで新たなる残酷な事実に気付いて息を呑んだ。彼らは家族も友達も恋人も未来も奪われて遊郭に落とされたのだ――玉東がただの売春街でないことを知らぬほど、流は無知でもナイーブでもなかった。彼は一瞬でも信を羨んだ自分が死ぬほど恥ずかしくなって唇をかんだ。
「……会いたい?」
「いいや。もう会える場所にはいない」
 もし何かしてあげられることがあったら、と思って聞いた流に信は衝撃的な告白をした。流は思わず立ち止まり、相手を見た。すると相手も立ち止まり、ことばを失っている彼に、言い足した。
「もう昔のことだ。心を病んでしまってね」
「………ごめん」
 ショックで、それしか言えなかった。おそらく青い顔をしているであろう流を安心させるように微笑んでみせた。
「整理はついてるから平気だ。……だけど時々、とても恋しくなる……」
 そう言って信は空を振り仰いだ。まるでそこに母親がいるとでもいうかのように。
「………きっと見守ってくれているよ」
 気休めに過ぎないそのことばも、信は素直に受け取った。
「そうだな……きっと……」
 彼は呟くように言って視線を前に戻し、それからやんわりと問題の核心に入った。
「敦也はあなたのことを好いています」
「そうは思えないよ」
 すると、相手は予想外に驚いた表情をした。
「あなたは彼がたったひとり、馴染みになることを許した富豪でないお客で、その上マブだ……それ以外の解釈はありえない……」
「僕のことからかってる? だとしたら傷口に塩を塗りこむのはやめてくれないかな? もう、わかったから……僕なんかがあの子に釣り合うわけないって」
「いったい何を言って……。私は、警告しようと思って来たんだ」
 話がまったくかみ合っていない。流はもどかしい思いをぶつけるように、少し語気を強めた。
「敦也は……敦也が好きなのは、どう考えても信さんでしょう?」
「……?」
「だから、あの子が好いているのはあなただって言ってるんだ」
 信は流の主張を一笑に付した。
「ありえない。さっきのはちょっとした悪戯だよ。あなたに嫉妬させるためにやったというのは明白でしょう」
「違う……違うんだよ……」
「とにかく、恋をするのは素晴らしいことだ。身分や立場を超えてね。だけどあなたに言っておきたい……」
 信は流の言うことには取り合わず、真剣な顔で話を続けた。
「あの子を傷つけないでほしい。とても純粋で不器用な子だ、無愛想に感じることもあるかもしれないが、大目に見てほしい。それからもう一点……足抜けは、まず成功しない。実は、昨年ある傾城が逃げ出したんだ、たぶん知っているとは思うが。しかしそれは例外的なケースなんだ……この十年で成功したのが彼だけなのがその証だ。もし失敗すれば手引きの者には罰金が科せられる上、色子の方は最下層の見世――つまり河岸に落とされる。私の知り合いで足抜けに失敗した者のうちの何人かはそこで命を落とした……衛生状態が悪い上にどんな行為もまかり通る場所なんだ、そこは」
 固唾をのんで話を聞く流の目を見据えて信は言い切った。
「つまり、足抜けに失敗した時点で敦也は墓場に入ったも同然ということだ」
「っ………」
「売れていたって関係ない。うちの遣り手は全体への警告のために微塵もためらわずにあの子を河岸へやるだろう。だからくれぐれも、彼の手を引いて逃げようなどという考えは起こさぬようにしてほしい。敦也も順調に行けば最低一年は年季を短縮してもらえるはずだから。だからそれまで待ってくれ」
「……わかったっ……」
 もう自分にクギを刺す必要などないのに、と思いながらも、流は頷いてみせた。すると相手はホッとしたように表情を緩め、再び歩き出した。流はスーパーの袋の重みで痺れた手をさりげなく揺らして血の巡りをよくしてから、相手と並び立って歩き出した。
「帰ったら何しようか? 食べたいものとか、行きたいとことかある?」
「絵は?」
 不思議そうに問う相手に、流は首を振った。
「もういいよ。せっかく区外(そと)に出たんだから君たちのしたいことをしよう。一応衣桁も着替えもあるからフツーの格好で出かけられるよ」
「……いいのか? あんなに描きたそうだったのに……」
「うん……なんかさ、失礼だったなーと思って」
 すると相手の瞳孔がわずかに開いたように見えた。
「失礼……?」
「そう。敦也に対しても、信さんに対しても……そんな権利なんかないって、今先気づいたんだよ……」
「なるほど……それでちょっとしょんぼりしてたわけか」
 相手は口元に笑みを刻み、面白がるように流を見た。しかし単に面白がっているだけではなく、満足げな、嬉しそうな表情でもあった。
「何だろーなー……すげー勘違いヤローだったよ、僕……芸術だの美だの色々ゴタク並べておいて、結局は欲望のカタマリだったっていう……」
「気にするな、人間そんなもんだ。それに敦也はあなたが好きなんだ、もっと自信持て」
 信はそう言って勇気づけてくれたが、とてもそうは思えなかった。しかし相手の勘違いを訂正する気力もなく、流は曖昧に相槌を打って茶を濁した。相手はそれ以上追及せず、話題を変えた。
「帰ったら何でもしていいのか?」
「うん……ていっても、僕がやってあげられる範囲内でだけど……」
「じゃあ私は早めに帰ってもいいかな? 寝たいんだ」
「え? いいよ、気遣わなくて。行きたいとこあるでしょ?」
 しかし信は首を振った。
「気なんて遣ってない。本当にちょっと今週は疲れてて……抜けたぶんはちゃんと返すから」
「……本当?」
「ああ。……いいかな?」
 相手の提案に、流は内心喜びながら、それをできるだけ顔に出さないようにしていた。
「わかった。戻ったら敦也に事情を説明しよう」
「すまない」
「うん。……この後どこに行ったらいいかな? 映画なんてベタすぎだと思う?」
 急坂の続く閑静な住宅街を後ろに二人若衆を連れて上りつつ問うと、相手は思案するような顔つきになった。
「そうだなぁ……それもいいかもしれないが、家でゆっくりするのも一手かも。あの子も忙しいから少しゆっくりさせてあげたら喜ぶんじゃないかな」
「そっか、そうだよね……そしたら夕食は何作ろうかな……」
「カレーは?」
「いいね。材料は……全部あるな。今ちょうど買ってた」
「そうか」
 信は笑顔で頷いた。艶やかな友禅によく映える、美しいのに男らしい凛々しい面立ちを彼はよくこんなふうに崩す。この自分の魅力にとことん鈍感な男に惚れたひとは――敦也も含めて――気の毒だな、と思った。
 他愛ない話をしながら坂を上り終えたふたりはさらに細い路地に入り、住宅街の終着点まで辿りついた。流はアパートの駐車場で待機している若衆たちに会釈をしてから信が先に帰る旨を伝えた。すると中のひとりが、妓楼に連絡しますのでお待ちください、と言って携帯を取り出し、白銀楼に電話をかけ始めた。
「もしもし……坂田ですが、菊野さんが少し早目にそちらに戻るとのことです……ええ、体調は大丈夫だそうです……はい……お客様、遣り手が少しお話ししたいそうです」
 坂田という用心棒はそう言って携帯電話を手渡してきた。流は慇懃にこちらの腹を探ってくる相手に、裏は何もないことを説明して電話を切った。そして、敦也をよろしく、と言って去ってゆく信を見送ると、自分の部屋に戻った。
 キッチンを通り過ぎ、リビングに入ると、敦也がソファで横になっているのが見えた。彼は眠っているらしく、流が入っていってもピクリとも動かなかった。近づき、そのバラ色の頬と皺ひとつない白い肌を愛でたあと、流はスケッチブックを手に取りたい衝動を抑えつけ、雑誌を手に取って傍らに座った。そして、敦也がこのソファで寝ているという非日常性に改めて感動しながら雑誌を読み始めた。

 敦也が目を覚ましたのは日が暮れてからだった。ちょうどカレーを作り終えたところだった流は目をこすりながらキッチンにやってくる相手に、腹が空いているかどうか尋ねた。相手はしばらくぼーっとしていたが、やがて言った。
「……信さんは?」
「先に帰ったよ」
「何で?」
 不満げな表情の相手に流は説明した。
「疲れていたらしい。自分の部屋で休みたいと言って戻ったよ」
「そう……」
「ごはん食べる? カレーを作ってみたんだけど……」
「ああ……」
「着替えもあるよ。こっち」
 流は敦也を脱衣所に案内し、シャツとカーディガンとスラックスを差し出した。
「衣桁はリビングにあるからね」
 すると敦也はコクリと頷いて洋服を受け取った。流は頷き返してキッチンに戻り、器にご飯をよそい、福神漬けをのせ、カレーをかけてダイニングテーブルに運んだ。それから付け合せのサラダと剥いたリンゴも配膳する。洋服に着替えた敦也はその匂いに惹かれるように緩慢な足取りでやってきて着物類を衣桁にかけると、流の向かいに座った。そして手を合わせて、いただきます、と呟くように言うと食事を始めた。
「どうかな……? 辛いのが好きじゃないって言ってたから甘口で作ったんだけど……」
「……おいしい」
 表情を変えずに食べていた敦也はそう答え、再び食べ始めた。箸が進んでいるようなのを見て安心した流は自分も食べ始めた。
いつも通り、というかいつも以上に自分に興味なさげな相手に少し傷つきながらも、付き合ってくれているだけありがたいのだ、と自分に言い聞かせてカレーを口に運ぶ。相手は食事の最中、ほとんど喋らなかった。彼は何かを思案するような顔つきで夕食を平らげたあと、片付けの手伝いをしようとしたが、押しとどめて好きに過ごすように言った。敦也は無言で頷くと、リビングに戻って再びソファに腰掛け、テレビを観はじめた。しかし少しするとまたうつらうつらし始めたらしく、流が洗い物を終えてリビングに行ったときにはソファのすみっこで丸まって寝ていた。まるで気高いペルシャ猫のようなその姿に感動し、髪をそっと撫でると相手が目を覚ました。
「ごめん、起こしちゃったね……」
 すると相手は猫のように伸びをして、こちらを向いた。今日初めてマトモに自分が敦也の視界内に入った気がした。相手はその美しいアーモンド形の目で流をじっと見つめた。その瞳に吸い込まれるように手を伸ばすと、相手は彼に身をゆだねた。
ソファに仰臥した青年の唇にそっとキスをすると、かすかにくちゅり、と濡れた音がする。背中に手が回ったのを確認した流は相手の咥内に舌を差し入れた。そして歯列をなぞってやると、相手が息を呑み、ぴくっと身体を震わせた。流はそのままシャツの裾から中に手を忍び込ませ、胴体を愛撫した。
「っ………」
 普段と同じように演技などしない敦也の口から押し殺した喘ぎ声が漏れる。ゾクリ、として、流は白いカーディガンと中の青っぽいシャツのボタンを外すと、中に手を突っ込んだ。吸い付くような肌の感触を楽しみながら少し動きを激しくし、徐々に手を下の方に下ろしていく。
 そっとズボンの上から太腿を撫で上げてやると相手のしがみつく手の力が強くなった。流はじらすようにそこで手を行ったり来たりさせて相手の性感を高めた。
「っ……しつこいっ……」
 敦也は食いしばった歯の隙間から唸り声を上げた。
「ご、ごめんごめん……」
「いいからさっさとやって」
「うん……」
 流は素直に頷くと、身体を敦也の足もとの方に持っていってズボンのチャックを下ろし、中から緩く勃ち上がったペニスを取り出した。そしてそれをそっと口に含み、舌でゆっくり扱きだした。
「うっ………」
 流が顔を上下させるのに合わせて敦也の腹が膨らんだりへこんだりする。彼はゆるゆると腰骨のあたりを両手で撫でながらフェラチオをした。淫猥な水音が部屋に響き、敦也の押し殺した吐息とが混じりあう。流は美しい獣を独占できているという優越感と、自分の傲慢さに対する罪悪感とで引き裂かれそうになりながら相手を絶頂へと導いた。
「はっ…………」
 太腿を痙攣させて達した敦也は胸を上下させて荒い息をついていた。流は身を起こし、ゴムを付け忘れたことを詫びた。敦也はどうでもよさそうにそのことばを無視した。
 流は相手の排出物を初めて味わえたことに感動しながら、そして、感動している自分に若干嫌悪感を催しながら、身を起こした。
「はぁーー、ごめん、我慢できなくてつい……」
「……? 終わり?」
 セックスまでするものだと思い込んでいたらしい敦也は不思議そうな顔でこちらを見上げた。流は頷き、立ち上がって脱衣所に行くとハンドタオルを熱い湯で濡らしてかたく絞り、敦也の元に戻って唾液で濡れた下腹部を拭いてやった。
「あ、どうも……」
「いいよ。あとね、お土産あるんだ。カステラ、好きだよね?」
 流はまた立ち上がってタオルを洗濯カゴに放り込むと、台所に行って食器棚の下に置いておいた紙袋を取り、リビングに戻った。そこでは敦也が少し戸惑ったようにソファの隅で膝を抱えて待っていた。
「はい、これ」
 紙袋を差し出すと、相手はおずおずと受け取った。
「たいしたものじゃないんだけど……」
「ヘン……」
「ん?」
「何か旦那、今日ヘン……」
「そう……?」
「……怒ってんの?」
「何に?」
 流の問いに、敦也はことばを濁した。
「いや、わかんないけど……うち何かした?」
「ううん、敦也の問題じゃない……僕自身の問題なんだ……少し、嫉妬してしまってね……あなたがあまりにも信さんと仲が良いから」
 すると敦也は自嘲気味に笑って流の不安を一蹴した。
「嫉妬されるほどの仲じゃない……」
 その顔が本当に寂しげだったので、気休めを言っているわけではないことがわかった。現金なもので、そうか、彼も自分と同じように苦しんでいるのだな、と思った瞬間、胸につかえていたものがスッと消えた。
「……利用するようなことしてゴメン」
 俯いて呟いた愛しい人に、流は首を振った。
「僕の方こそゴメン……無理やり絵のモデルにさせたりして……その他にもいろいろ……」
 そのことばに、敦也は少し考えたのち、立ち上がった。
「描いていいよ」
「………」
 シャツに白いカーディガンを羽織った敦也はくるっと一回転してみせた。
「別に描かれるのがイヤだったわけじゃない。着物がイヤだっただけだ」
「……そうだったの?」
 敦也は頷き、憂うように目を細めて中空を見つめた。
「アレ着てるとさ、色々思い出すんだよ……」
「そっか……」
 流は、花魁を描きたい、と思っていた自分を改めて恥じた。
「どうすればいい?」
「……本当にいいの?」
「ああ」
「じゃあ………好きなように過ごしてて。自然体のあなたを描きたいんだ」
「ふーん」
 敦也はあまり表情を変えずにソファに座ると、テレビをつけた。そして、動物番組にチャンネルを合わせると、再びまどろみ始めた。一日で三回も寝顔を見られるなんて最高だな、と思いながら、流はスケッチブックとえんぴつを手に取ってデッサンを始めた。
化粧を落とし、普段着で、膝を抱えて眠っている敦也はいつも以上に幼く見えた。きっとこれが本来の姿なのだ――学校に行って、不満を言いながら勉強して、部活に行くか友達と遊ぶかして、家に帰って、ご飯を食べて、テレビを観つつうたた寝して、親に宿題をしろと怒られる――そういう日常を送るべき年代なのだ、彼は。
 流は社会というものの残酷さを改めて目の当たりにしながら、彼を守るためにできることは何でもしよう、と心に誓った。そして、スケッチブックのページをめくり、再びえんぴつを滑らせはじめた。

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