白銀楼物語 スピンオフ (更新中)

復讐するは我にあり 2

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  ※R18 暴力表現、無理やり表現、複数、モブ要素あり

 翌朝、早起きをして食堂に向かった信を出迎えたのは好奇の視線だった。雰囲気からして、どうやら鷹谷たちが余計なことを喋ってくれたくさかった――しかも彼らに都合よく。
 朝食を手に席に行く途中、通りがかったテーブルについていたほぼ同年代の男子たちが――本来は学生か社会人になりたてのはずの子たちが――、紅妃さんがいるのによく、とか囁きかわしているところを見ると、やはり昨晩の出来事は信が〝しかけた″ことになっているらしかった。鷹谷らの言い分を鵜呑みにする彼らも彼らだが、散々廓をかき乱すようなことをしてきた自分も自分だな、と思いつつ着席すると、ものすごいスピードでこちらにやってくる友人の姿が目に入った。
 いろいろとマズいことになりそうだ、と直感的に思った信は立ち上がり、食器を戻して食堂を出ようとしたが、その前に相手に捕まった。
「信、ちょっと話せるか?」
 当然ながら相手は章介だった。そして彼だけでなく、その後ろには何と大輔や、かつて信の部屋付き禿であったなずなや秋二や夏樹や伊織までもが心配そうな顔つきで控えていた。
「皆さんお揃いで。どうしたの?」
 そう白々しくとぼけてみたが、多勢に無勢、うまくかわせるわけがなかった。章介はむっつりした顔で唸るように言った。
「食事が終わるまで待っていてもいいか? 昨日のことについて聞きたい」
 彼の目が絶対に逃がさない、と言っていた。
「じゃあ教室行こうか」
 信は仕方なくそう言って立ち上がった。
「食事はいいのか?」
「後で食べるよ」
 さすがに鷹谷達の仕打ちによる精神的ダメージがゼロとはいかなかった信はこの日の朝、食欲がなかった。信の返答に友人は若干眉をひそめ、検分するように彼を見たが、それについては言及しなかった。
 信は食器を返却口に置くと、すごい形相をしている友人と共に上階にある教室へと向かった。教養や房事のイロハを一本立ち前の禿や新造たちに教える、十五人分の机が並んだ教室の中で、信は章介と対峙した。他の面々は気を遣ってか中に入ってこなかったため、部屋にはふたりきりだった。
「いったいどうした?」
 半分だけ真実を言ってごまかす、というのが信の作戦だった。
「昨晩、風呂に行ったか?」
「ああ。思ったより早く上がれてな。偶然キャンセルが重なったんだ」
「そこで……鷹谷たちに会ったか?」
 教卓のそばに立ち、怒りで顔を赤黒くした章介が見下ろしてくる。
「会った」
「……それで?」
 章介がごくっと唾を呑みこんだ音が聞こえた。
「えーっと……ちょっとモメたかな」
「具体的には何をされたんだ?」
 これまでの経緯――すなわち、鷹谷らが何かと信にちょっかいをかけてき続けていること――を知っている章介相手に、〝何もなかった″で通すのはほぼ不可能だった。
「襲われかけた、みたいな感じ? でも逃げられたよ」
「鷹谷はそういうふうに話していなかったようだが……?」
「何て言ってるんだ?」
「その………信と、客とするような……」
 気まずそうに言葉尻を濁した相手に、信は笑って答えた。
「私があの人らに捕まるようなヘマするわけないだろ? 忘れたのか、青帯なんだぞ?」
 さすがに五人はのせなかった、と内心思いながら、軽い口調で続ける。
「私の口から真実が先に漏れたらメンツ丸潰れだから先手を打ってホラ吹いてるだけだよ。少し触られたけど、それだけだ。何もない」
 すると章介は複雑そうな表情をした。どちらの言い分を信じるか、決めかねているのだろう。信は自分の前科の数々を思い、信じてもらえますように、と祈りながら相手が口を開くのを待った。
「………信じて、いいんだな?」
「ああ」
 信は顎を引いた。ウソをつく罪悪感がないわけではなかったが、真実を知ればまず章介は鷹谷を許さないだろう。直情的というほどではないが、こと友人を大事にする性格で、もし彼らを傷つけられようものなら黙っていないタイプなのだ。そして鷹谷の方もそれを受け流せる器ではない――大乱闘が起こるのは目に見えていた。
 そんなことになれば間違いなく鷹谷らは折檻部屋行きに、ヘタをすれば下の見世に棲み替えになる――遣り手のお気に入りである章介は罰されないはずだった――。もしかしたらそれが一番楽で合理的な解決方法なのかもしれなかったが、そうなるのは嫌だった。折檻を受けて正気を失いかけたことがある身としては、相手がどんな極悪人であろうとも〝あの部屋″に送り込むようなマネはしたくなかったのだ。それに彼らだって結局はこの歪んだ社会とその制度の被害者なのだ。〝悪人″と決めつけて断罪する資格が自分にあるとは思えなかった。加えて言えば、遅かれ早かれ昨日のような出来事が起こるような気はしていたし、散々客にいいようにされている身体も今更だった。
「……わかった。しかしこれからは単独行動は慎め。風呂にはひとりで行かないように」
「了解」
 章介は納得してくれたようだった。信は、あの状況を切り抜けられるひとなどそういないだろうな、と思いつつ、相手に続いて教室を後にした。そして心配そうな顔で廊下に待機していた仲間たち――環と一樹が去ってのち激減した信の味方の大半がそこにいた――に何が起こったのかを話し、安心させると、彼らと別れてその足で図書室に赴いた。一緒に来ると言ってきかない章介と立ち読みをしながら、全く何も食べずにいるのはよくないな、などとつらつら考え事をしていると、不意に単行本サイズの植物図鑑が背後から取り上げられた。
「『四季の植物図鑑』? 面白いか?」
 図書を奪ったのは鷹谷だった。その横にはいつも通り熊谷と及川がいた。彼らは一様にイヤな感じの笑みを浮かべていた。三人くらいなら何とかなりそうだったが、つい半年前に稼ぎ頭の傾城の足抜けを手引きしたという前科持ちの自分がここで悶着を起こしたらどうなるかは目に見えていた。それで逃げるしかなかろうと動いたが、相手の方が早かった。
 最初から二、三列向こうの書架で本を探しているはずの章介を呼ぶつもりはなかったが念のためか口を塞がれ、更に奥へと引きずり込まれた。地面に引き倒される前に抜け出そうと身をよじると、おとなしくしろっ、と小声で言われ、うなじに何かを押し付けられた。
「――――!」
 次の瞬間、首から全身に衝撃が走り抜けた。信はたまらず膝をついた。
「ちょっと、首はヤバイんじゃねーの?」
 少し焦ったように言ったのは、声から判断するに及川らしかった。すると、鷹谷が笑いまじりに答えた。
「ヘーキヘーキ。きぃちゃんにはこのくらいじゃねーと効かないんだよ」
「そうそう。腹にやったときなんかケロッとしてたし」
 同調した熊谷に、及川が驚いたように返した。
「って、もう経験済みかよ。お前らすげーな。時々怖くなる」
 及川は相変わらず、〝群れ″の中では一番常識人だった。昨日彼がいなければ血みどろの惨事になっていたことはまず間違いなかった。
「しゃーねーじゃん。王子、結構力あるし」
「寝首かかれないようにな?」
「夜這いなら歓迎だけどな」
 彼らは軽口をたたきながら、動かなくなった信の身体から衣類を剥いでいった。
「昨日は可愛かったな、泣いてよがってねだってよ。身体が疼いてたまらないんだろう? 相手してやるよ」
 鷹谷は胸の上までシャツをまくり上げ、胸板をまさぐりながら顔を近づけてきた。
「覚えてるか? あのとき何て言ったか……」
 相手の唇を避けて辛うじて動く頭を横に向けると、耳に吐息がかかった。信は目を瞑って返事を拒否した。すると相手は興奮したように耳元で囁いた。
「気持ちいい、ガマンできない、挿入(いれ)て、だ……当然覚えてるよなぁ。もっと恥ずかしいこともその上品なお口でねだったよなぁ……ハァ、お前、最高だよ。ご褒美にまた可愛がってやるからな……」
「……早くしないと、章介が来ますよ……」
 やっと回るようになった舌を動かして声を発すると、相手が笑う気配がした。
「心配するなって……彼氏にはバレないようにやってやるからさ……」
「ほーら、もう濡れてきたぞ、淫乱」
「敏感肌はツライなぁ」
 局部を直に握られ、信は呻いた。強制的に勃たされたそれを乱暴に擦られ、痛みと快感に唇をかむ。章介に見つかりませんように、と祈りながら仰向いた瞬間、上に乗っていた鷹谷と目が合った。心底愉しそうな表情を浮かべている相手に、一体全体どうして嫌がる相手をいたぶってこんなに愉しめるのだろう、と心底疑問に思いつつ、信は身じろぎをした。
「お前は、おれたちのオモチャだ。ずっと、ずーっとな」
「うれしいだろ? 一抜けなんて許さねえ、身請けの話は受けるんじゃねえぞ」
「ありがとうございますって言えよ」
 熊谷は言うなり信の頬をはたいた。そして鳩尾に拳を押し付け、脅してきた。
「うっ……ありがとう、ございます」
 苦しさにたまりかねて涙目になりながら相手の望む言葉を口にすると、熊谷は満足げに頷いた。
「相手してもらえてうれしいって言え」
「うれしいです」
「じゃあ呼ばれたらすぐ来いよ。わかったか?」
「それは………」
 すかさず拳に力を入れられた。
「ハァ? 聞こえなかったなあ。何て言った?」
 あくまで腕力で言うことを聞かせようとしてくる相手に呆れ返った信は、この辺りではっきり言っておく方がよかろうと思って相手を見据え、落ち着いた、しかし決して弱くはない口調で言った。
「………そうやって力で相手を支配できると思ったら大間違いですよ。あなた方に私を傷付ける権利はない。私の身体を好きに使う権利ももちろんない。金輪際、こういったことはやめて頂きたい」
 信が口を閉じる前に再び拳が振るわれた。何度も、何度も振り下ろされる拳に、信は鷹谷が逆上していることを知った。遠慮呵責なく殴られ、激痛に息が詰まった。悲鳴はいつも通り及川の掌の中に消えてゆき、静謐な館内の奥部に響くのは、拳が肉を打つ鈍い音だけだった。
「おい、これ以上はやめとけって。内臓破裂とかしたらシャレになんねえぞ」
 信が強烈な吐き気に襲われて戻しそうになったとき、及川の一声でようやく暴力の嵐が過ぎ去った。信は生理的な涙を流しながらもがいて及川と熊谷の拘束から抜け出ると、四つん這いになってそばの床に胃の内容物をぶちまけた。朝食に手をつけていなかったのでほとんど胃液しか出なかったが。
「う、うぅっ……ぐっ……!」
 常人ならば慌てふためくシチュエーションのはずだが、鷹谷や熊谷は何事もなかったかのように会話を続けた。
「お高く止まりやがって。ンな綺麗な身体でもねぇくせに。生意気なんだよ」
「自分から誘ってきたくせに被害者面するなよな」
「昨日のは明らかに合意だよなぁ。最初こそちょっと嫌がってたけど最後の方は感じまくってたもんな」
「感じてたら合意……? 典型的ですね」
 信が醒めた口調で言い返すと、鷹谷と熊谷の雰囲気が剣呑さを帯びた。
「何だって?」
「典型的な……性犯罪者の言い訳だと言っているんです。ゲホッ、あの状況で最後まで抵抗できるひとがどのくらいいると?」
「っ、てめぇっ……!」
 再び拳を振り上げた熊谷に信は目を瞑った。しかし予想した衝撃はやってこなかった。目を開けて様子を窺うと、及川がその手首を掴んで制止していた。
「お前、今顔殴るつもりだったろ。それはやめとけって。なぁ菊野、お前もうおれたちのオモチャなんだからもうちょっと可愛げのある態度とれよ」
 及川は今、確実に信を助けてくれようとしていた。例えそれが保身のためだったとしても。
「今回は口で勘弁してやるからさ」
 そのことばに、それまで怒りに顔を赤黒くしていた鷹谷が表情をやわらげて言った。
「さすがに図書館で最後までは無理か。全員イかせろよ。それが許してやる条件だからな」
「嫌だ。自分の手使やいいでしょ」
「菊野。やれ」
 及川が目くばせをしながら強い口調で言ってきた。彼は言外に、これが大怪我をせずに助かる唯一の道だと示唆していた。信はそれで仕方なくあちこち痛む身体を起こして、早々ジッパーを下げた鷹谷の前に跪いた。
「早くやれよ。評判の〝テク″を見せてくれよ、きぃちゃん」
 躊躇していた信に相手が嘲るように言った。信は相手を見上げ、無愛想に聞いた。
「ゴムは?」
「ンなの必要ねぇよ」
「着けなきゃやりません」
「はあ?」
 憤慨したように威嚇してくる相手に、怒りたいのはこっちだ、と信は思った。
「セーフセックス、白銀(ココ)での基本でしょう? お互いリスク高いんだからなおさら気をつけないと」
「ハッ、大丈夫だって。ホラ早くしゃぶれよ」
 こういう輩がいるから性病が蔓延するのだ、と内心毒づきながら、それでも信は言われた通りにした。暴力の気配を漂わせている相手を見て、更なる身体的ダメージと感染のリスクとを天秤にかけた結果、感染のリスクが高くなる方がマシだという結論に達したからだ。容赦なく殴られた腹や背中はいまだ耐えがたいほどの疼痛をもたらしていた。
「ハッ……さすがにうまいな」
 信は自分の後頭部を掴んで快楽を貪る相手を高めながら、章介が帰ってくる前に終わらせなければ、と思った。彼が今この現場を目撃したらどういうことになるか――想像したくもなかった。愛撫を続けるうちいくつかの手が自分の身体を這いまわり始めたが無視して、ひたすら鷹谷を絶頂に導くことだけに集中した。
 もともと昂っていた相手は比較的早く昇りつめた。信の喉奥をつきながら、彼は絶頂した。
「ハッ、いいか、出すなよ」
 そう言った瞬間に、腔内に苦いものが広がった。信は反射的にそれを手に吐き出した。次の瞬間、頭に衝撃が走った。
「っ……!」
「飲めっつったよなぁ、おれ。舐めろ」
「え……?」
「手に出したモン舐めろっつってんだよ。あと床のも全部綺麗にしろ」
 相手は倒れ込んだ信の手から床にこぼれ落ちつつある白濁を指し示した。
「嫌だっ! 何でそんなことしなきゃいけないんだよっ!?」
 全く経験がないわけではない。しかし客に避妊具着用を厳しく義務付けている廓で、こういったことを命じられたことはほとんどなかった。嫌悪感に全身が総毛立つ。信は耐えきれずに逃げようと立ち上がった。しかしその途端に及川に拘束され、再びスタンガンを使われ、地を這わされた。
「ぐっ……!」
「いいから言うこと聞け。いいコにしてないともっとヒドイことになるぞ」
 この野蛮人たちはいったい何なのだ、と混乱と怒りでどうにかなりそうになりながら、信は暴力を回避するために仕方なく絨毯についた鷹谷の精液に恐る恐る舌を這わせた。
「おぉっ、やったやった」
 歓声を上げた熊谷に鷹谷が返す。
「エロいな。カメラ持ってくりゃよかった」
「なに、それでシコるわけ? お前本格的にホモになっちゃったんじゃね?」
「コイツは男とか女とか関係ねぇ感じだろ。男って感じがしねぇ」
「ハハッ、違いねぇ」
 笑って同意する熊谷に鷹谷が続けた。
「孕む心配もないしな。穴さえありゃいいよ」
「ハハッ、クズだコイツ」
「お前には言われたくねぇ」
 虐待者たちの哄笑と嘲笑を聞きながら、信は促されて掌の白濁も舐めとり――この時点でほとんど吐きそうだったがもう何も出てこなかった――、それから残り二人の処理をした。ひどく惨めで泣きそうになりながら何とか要求に応えると、彼らはこれからもこういった役割が信に課されることを再三強調してから図書室を出て行った。
ひとり取り残された信はトイレに駆け込んで残りの胃液を吐き戻すと、水道水で何度も口の中を洗った。そして気が済むと深々と息を吐き出し、気持ちを落ち着けてからそこを出て元いた場所に戻ろうと歩きだした。そのとき、ちょうど入口の方から足早にやってきた章介と鉢合わせた。
「信、だいじょうぶだったかっ? 悪い、急に遣り手に呼ばれて……」
「平気だ。さ、何か軽食でも買いにいかないか? 朝食、食べそびれただろう?」
 食欲はまったくなかったが、何か入れておかなければ後でますます体調が悪化するのは目に見えていたから、信はそう言った。すると章介は、彼がトイレで元通りきっちりゆわえた髪と整えた衣服を上から下まで二度見てから頷いた。どうやらチェックはパスしたらしい。
「じゃあ行こうか。貰い物の梨もあるから一緒に食べよう」
 信はずきずき痛む腹をさりげなく庇いつつ歩きだした。一歩遅れて隣を歩きだした章介を目の端で捉えつつ、信は思った――鷹谷たちのことがこの友人に知られるようなことがあってはならない、ひとりで何とかするしかない、と。
 信は歯を食いしばって解決策を探し始めた。
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