白銀楼物語 スピンオフ (更新中)

復讐するは我にあり 1

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  ※R18 暴力描写、無理やり表現あり モブ、複数要素あり 

 その日の夜、珍しく早く上がれた信は鼻歌まじりに大浴場に向かっていた。五階の自室を出てひと気のない階段を二階分降り、食堂を過ぎた先にある風呂に着くと、引き戸を開け、脱衣所に入った。広々した室内には誰もいなかった。まだ早い時間だからだろう。
 九時台に上がれるなんて奇跡だな、と思いながら部屋着と下着を脱いで浴場への扉を開けると、浴槽の中で数人がくつろいでいる姿が湯気のむこうに見えた。しかし、彼らの声を聞いた瞬間に、信は回れ右をして帰りたくなった。少ししてからもう一度来ようと、踵を返しかけたそのとき、すぐ後ろから声がかかった。
「お疲れ。珍しいな、こんな時間に」
「お疲れさまです」
 心臓の鼓動が速くなる。退路を断たれる前にと相手を避けて出口に向かおうとした信の肩に手がかかった。
「おいおい、来たばっかだろ?」
「ちょっと、忘れ物を思い出しまして……」
「何よ? 貸すよ?」
 相手の手を外し、歩き出すと、浴槽にいた男たちがこちらの問答に気付いた気配がした。
「霧里、誰と話してんの?」
 湯気のむこうから鷹谷の声がする。今度こそ逃げられないかもしれない、と思った。
「菊野だよ」
「マジ? こんな時間にどうしたの、きぃちゃん」
 信はようやくそこで里見の再び自分を掴んだ手を振り払い、出入り口に直行した。
「ちょっとちょっと、つれないじゃないの」
「捕まえとけよ、こんな機会ないからな」
「ちょっとっ、……放してっ……!」
 出口まであと十歩というところで背後から羽交い絞めにされる。多少空手の心得があるので霧里と呼ばれた中背中肉の男――里見栄一郎――の拘束を解くのは難しくなかった。しかしうめき声をあげて床に転がった相手の屍を越えて男たちがわらわらやってきた瞬間、信は戦意を喪失した。
「そう暴れるなって。ちょーっと遊んでくれれば痛いコトはしないからさ」
「怯えたカオもそそるなあ、今日はどうちたの? 売れ残っちゃったの?」
「なあ、ちょっとカギかけてこいよ」
 じりじりと壁際に信を追い詰めつつ、五人の先輩傾城――鷹谷新太、熊谷俊作、麻生大介、里見栄一郎、そして及川共哉――はギラギラした目で信の肢体をを上から下まで舐めるように見た。相手の視線に軽く吐き気を催しつつ、信は相手を説得しにかかった。
「お、お邪魔したならすみませんでした。戻ります」
「全然お邪魔じゃないから安心して」
「いつもながらキスマークすげーなあ。ホラ、足にも」
 そう言って無造作に太腿に触れられ、信は身を強ばらせた。
「ちょっと……」
 すると一番大柄な――章介ほどではないが――傾城、麻生が品無く哂った。
「ハハッ、いつもって、スゲー見てんじゃん」
「見なくても目に入るだろーがよ。にしてもンなカラダでよくココに来れるよなあ」
 鷹谷は蔑むように言った。
「誘ってんだろ? 客だけじゃ足りないんだよな?」
「そっかそっか。じゃあおれらが相手してやんなきゃな、欲求不満の可愛いネコちゃんのために」
 そのことばがきっかけになったかのように、十本の手が――既に復活していた里見を含んだ五人の十本の手が――一斉に伸びてきた。信は手を振り払いつつ、退路を探した。
「おいおい、そんな腰振るなって。ガマン利かなくなんだろ?」
「嫌だっ! 放せっ!」
「そんな怖がるなって。優しくしてやるから。おい、あっち連れてくぞ」
 及川のことばで、身体を拘束している十本の手が動き出した。
「嫌ですっ! やめてくださいっ」
 誰ひとり、信の声を聴く者はいなかった。都合よく正義のヒーローが現れるわけでも、天変地異が起こるわけでもなかった。信は浴場の奥に連れていかれ、座った体勢で里見に羽交い絞めにされた。
何とか抜け出そうともがいていると、不意に正面にいた鷹谷が拳を振り上げた。
「ぐっ……!」
 腹を攻撃された信が身体をできる限り折って喘いでいると、里見が拘束をきつくし、信の上体を強制的に起こさせた。その瞬間、間髪入れずに二発目が叩き込まれる。信の絶叫が風呂に響き渡った。
「うっせえなっ、黙っとけっ!」
 そう言われ、口にタオルを突っ込まれた信は、息苦しさに更に声を上げた。しかし、布に吸収されてほとんど聞こえなかった。
 無意識にもがいていると、更に二発、三発と拳を入れられ、やがて信は動けなくなった。抵抗しない方がよかったかな、と思いつつぼんやり周りを観察していると、反撃のリスクがなくなったと判断したらしい鷹谷は拳を振るうのをやめた。そして猫撫で声で言った。
「叫ばないか?」
 信はコクコクと頷いた。
「よーし、それでいい。いいコにしてろよ」
 鷹谷は満足げに言ってタオルを信の口から引き抜いた。
「ゲホッ、ゲホッ、………!」
 ここで外からの助けを期待して叫んでみるだけの度胸は信にはなかった。彼は今にも仕事に取りかかろうとしている男たちに、かすれた声で切れ切れに聞いた。
「ゴムはつけてもらえますか?」
「何このコ、やる気マンマンじゃん」
「おもしれーなぁ、きぃちゃん」
「意外と肚据わってんなあ」
「ごめん、さすがに持ちあわせはねーわ」
 彼らはゲラゲラ笑いながらそう言った。我ながらこの状況でバカげた質問だと思ったが、リスクの大きい行為はどうしてもしたくなかった。避妊具をつけない肛門性交などその最たるものだ。
 信はレイプ自体はさほど恐れていなかった。その行為がひとから何かを奪うと思っている者にとってのみ、それは意味を持つ行為であると信じていたからだ。そのようにして相手を支配したり、優位に立ったりしようとする人間の行為も言葉も、信にとっては何の意味もなかった。彼らに曝して恥ずかしい裸も、聞かせて恥ずかしい声も、言うのが恥ずかしい言葉もなかった。客を含めて信の身体を一時的に〝借り″るいかなる人間も、彼の尊厳を貶めることはできなかった。
 ゆえに今なされようとしていること自体は大きな問題ではなかった。しかし、病気を伝染されるのは絶対にごめんだった。
「じゃあ手で勘弁してもらえませんか?」
 しかし相手は聞いてくれなかった――残念ながら彼らは話の通じない人種だった。まあ、そもそもこちらの話を聞くような相手だったらこんなことはしないだろうな、と妙に納得しつつ、信はぼんやり天井を見上げた。そして、せっかく早く上がれたのにコレだ、と内心ため息をつきつつ、不愉快な光景をシャットアウトするために目を瞑った。
 誰もかれも欲、欲、欲――少しは他人に迷惑をかけずに欲望を処理する方法を学んでほしかった。〝理性を失って襲う″なんてありえない。もし本当に判断能力を失って他人に危害を加えるケースが大半ならば、性犯罪のほとんどは時、ところ、相手構わず起こって社会は大混乱状態に陥るだろう。しかし実際には、加害者は相手の性別も、社会的地位も、目撃者の有無も考慮したうえで犯行に及んでいる。ヤクザやマッチョな外国人の恋人がいる女性は襲われないし、スクランブル交差点で白昼堂々相手を襲うひともいない――それとまったく同じように、章介がそばにいるときの信も襲われない。ちょっかいをかけられるのはこうやってひとりで、人目に付かないところにいるときがほとんどだった。それだけきっちり状況判断をしておいて〝本能″を言い訳にするなど笑止千万、と信は思った。
「はぁっ、はっ……この日をずっと待っていた……入ってきたときから目ェつけてたんだよ。思ったより成長しちまったがまあいい」
 当初からやたら絡んでくることの多かった鷹谷――カリスマ性があって、集団の中でイニシアチブを握ることのできる、ある種一樹に似た、しかしはるかにタチの悪い人物――が荒い息をついて、里見に羽交い絞めにされた信のほおをするっと撫でた。その指が唇に到達しそうになったとき、彼は顔を背けた。
「何だよ、どうせお前も待ってたんだろ、こうされるのを」
 被害者への責任転嫁は性犯罪加害者の定石だ。
「………」   
 あごをがっちり掴んで引き戻した信の唇を、鷹谷は今度こそ指でなぞった。体格がほとんど変わらぬ相手の手はしかし、信のそれより大きく、がっちりしていた。
「おい、無視すんなよ、きぃちゃん」
「………」
「ハハッ、琴音、無視されてやんの」
「フられちゃったなー」
「残念、お前なんか釣り合わないってさ」
 仲間の面前でメンツを潰されたと思ったらしい鷹谷は信の頬を張った。
「お前っ、調子乗ってんなよっ!……淫売のくせにっ!」
「口でしたら、許してくれますか?」
 信はハナからこの、見ている世界も価値観も異次元の男たちから売られたケンカを買うつもりも、彼らと会話を成り立たせる気もなかった。どうしたっているのだ、そういう、どう努力しても噛み合わない相手は。
「後ろは負担が大きいというのは皆さんもおわかりのはず」
 同じような経験を日々しているはずの傾城たちにそう訴えかけてみたが――これくらいなら通じるかと思って――成果は得られなかった。正確には、鷹谷には響かなかった、と言うべきだろう。そしてそれは、五人全員に響かなかったということを意味していた。
「冗談。頂くに決まってんだろ。な?」
 そう煽る鷹谷に、周りの男たちはこぞって賛同した。
「あ、ああ」
「こんな機会ないしな、いつもガード堅いから」
「彼氏に怒られちゃったらごめんね? でも言えないよなぁ、こんなコト」
 五人を同時に相手にするなど前代未聞だった。信は若干動揺しつつ、座った状態で開かされた足を閉じようとした。
「はい、ご開帳ー」
「ヤベェ、エロい。もうマ●●じゃん、ココ。顔キレイなヤツってコッチも綺麗なのかね?」
 里見の問いに、熊谷が首を振る。
「いーや、ンなことない。前に期待してたのに超グロかったことある、女で」
「あー、例の同級生? そりゃ萎えるよなぁ」
 同情的なトーンで返した里見に、熊谷がアッサリ残酷なことを言った。
「だから別れたわ。まーさすがにそれを理由にはしなかったけど。でもマジ詐欺だよなー、白いワンピの下が真っ黒なんて」
 面白くもないその冗談に、一同がどっと笑った。こういうどうしようもない男たちがいるから誤解されるんだよなあ、と思いつつ、彼らからできるだけ目を背けていると、不意に注目の的になっていたその場所に、誰かが触れてきた。幸いリンスか何かの潤滑剤で濡れていた。その指でゆっくりそこをほぐし始める及川に、麻生が少し呆れたように言った。
「ご丁寧だな」
「傷付いたらさすがにヤベーからな。小竹は怒らせたくない」
「何、ビビッてんの?」
「合理的に行動しているだけだ」
 一番マトモそうな及川が冷静に言って尻を慣らしてゆく。
「よし、完了っと。感謝しろよ、お前たちのためにやってやったんだから」
「サンキュー。じゃあきぃちゃん、いくよ」
 そう言って自分に覆いかぶさってくる鷹谷を眺めつつ、もし小説とかテレビドラマとかの作り物の世界だったなら――と思った。――もしハッピーエンド前提の物語の世界なら、ここで魔法のように相手に邪魔が入り、助かるのだろうな、と。しかし、現実には、助けはこなかった。誰ひとり味方のいない広い密室で、信は時が過ぎるのを待った。男たちは入れ替わりたちかわり信の中に押し入り、その肉体を使って欲望を満たした。
 信は、抵抗が相手を煽ることを実地で知っていたので、早い段階から抵抗を放棄していた。本当に、自分はどうして今日風呂に、この時間に来てしまったのだろう、と過去の自分とめぐり合わせとを恨みながら、知性のない獣同然にみっともなく喘ぐ鷹谷たちの相手をした。彼らは信を貶めることばを吐きながら、自分たちを貶めていた。
「ハハッ、イきそうだな? もうタマパンパンじゃん。イきたいんなら〝お願い″してもらわないとな?」
 竿を手で擦り上げていた鷹谷のその要求に、信はためらった。すると根元を指で圧迫され、思わず呻く。
「言わないとずっとこのままだぞー」
「鬼畜だなー」
「カワイソー」
 傾城たちの哄笑を聞きながら、信は過ぎた快感に身もだえた。
「ヤバ、また勃ってきた……何なのコイツ? インキュバスか何か? おれホモじゃないはずなんだけど」
「別に女っぽいワケじゃないのになぁ……不思議だ」
 虐待者たちが頭上で何かことばを交わしていたようだったが、信にはほとんど聞こえていなかった。爆発しそうな性器を解放してもらうことしか頭になかったからだ。もう今更同僚相手にプライドも何もないか、と思った瞬間に、口から懇願のことばがこぼれ出していた。
「言うっ……言いますからっ、手、放してっ」
「かわいくおねだりできたらな」
 信を串刺しにしたままの鷹谷はニヤリと笑ってそう言った。信は相手の首に腕を回し、顔を引き寄せて小首を傾げ、意識してたどたどしい口調で言った。
「お願い、イかせて、鷹谷さん」
 すると相手は一瞬瞠目したのち、信のペニスから手を離した。そして、ご丁寧に数回しごいて絶頂に導いてくれた。
「おぉ、出た出た」
「思ったより薄くないな」
「琴音、いつまでやってんだよ、じいさんかよ」
 周りで各々辞意をしたり、信の体をいじったりして暇をつぶしていた仲間のことばに、鷹谷は信の腹に出た精液を塗り広げつつ、口をとがらせた。
「うるせぇ、そっちが早すぎるんだよ。まぁいい、口使え。きぃちゃん、ホラ、四つん這いになって」
 信はのろのろと上体を起こして体の向きを変えると、すかさず押しつけられたペニスを口に含んだ。喉奥をつかれえずきそうになりながら、現実はこんなものだな、と信は冷めた心で思った。ヒーローも登場しなければ、神の助けもない。自分ひとりで切り抜けるしかない――これが現実なのだ。
 これからは大浴場を利用するときには注意が必要だな、と思いつつ、信は目を瞑って醜き世界と人間たちを排除した。
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