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            ※R18 モブx章介 一樹x信(アッサリ) の絡みあり 

 どうやらウッカリ口を滑らせてしまったらしい章介から、一樹と信とかなり親しいことを聞いて、興味本位で一緒に上げようとしてくれたとんでもない客の名は和泉といった。一樹は自分たちに見せつけるようにして章介を後ろから抱きこみ、その腿のあたりをさすっている相手の品のなさに眉をひそめ、信と顔を見合わせた。同じように感じていたらしい相手は軽く首を振り、憐れむような目で章介を見た。彼は首まで真っ赤にして首が折れそうなほど深くうつむいていた。章介と背丈がほぼ変わらず、幅が1.5倍くらいある和泉はうっそりと笑って敵娼(あいかた)の首筋を舐め上げた。
「彼、かわいいだろう?」
 そのことばにカチンときて、一樹は笑顔で冷然と返した。
「私たちにはもっといいカオ見せてくれますけどね。例えば満面の笑み、とか」
 すると、相手は一瞬怯んだような顔をした。一樹はそれに乗じて更に言い募った。
「彼が笑うの、見たことあります?」
「……だったら何だっていうんだ……?」
「うん、笑顔は今の表情(カオ)の十倍かわいいですよ。だからせっかくこんなに可愛がっていただいているのに残念だなあ、と思いまして」
「っ………」
 相手は一瞬気色ばみ、章介をもてあそぶ手を止めたが、すぐに持ち直した。
「随分自信がおありと見える。じゃあ笑わせてもらおうか、今ここで」
「いいですよ。じゃあちょっと貸してください、その子」
「いいだろう」
 和泉が頷いて着物の裾の下に潜りこませていた手を引くと、章介は電光石火で着物の乱れを直した。一樹は立ち上がってそばに行くと、相手の腕を引いて立ち上がらせ、少し離れて座っていた信の元に連れてゆき、その横に座らせた。
「これでよしっと」
「な、何する気だ……?」
 たじろぐ章介を横目に信の膝に座って一樹は言った。
「さ、好きな方選んで?」
 唖然としている章介の頬をつついて、やっと目を見たな、と思いつつ、一樹は続けた。
「抱かせてやるから」
「なっ……!?」
「こんな上玉ふたりから選べる機会なんてそうないぜ? 何せ毎度毎度お職争ってるんだからな、おれたち。最近〝双璧″とか呼ばれ始めたんだぜ? よその傾城にあやかってだけどな。いよいよ上りつめたって感じしない?」
 すると章介は悲しげに、そして若干は咎めるような表情でぼそっと言った。
「良かったじゃないか……夢が叶って」
「前からお職(トップ)獲りたいって騒いでたもんな」
 信が呆れたような口調で言ったので、一樹は若干カチンときて自分が乗っている男をねめつけた。
「何だよその言い方ー。バカにしてない? バカにしてるよね?」
「事実を言ったまでだ。実際大層なこだわりようだったじゃないか。〝おれはどこにいても輝くんだ!″とか言って」
「上目指して何が悪いんだよっ? そっちこそサボりすぎて小竹に目ェつけられて結局働かされてんじゃねえかっ。ひとのこと言えんのかよ?」
「まあまあ、ふたりともちょっと落ち着いて……」
 仲裁に入った章介を無視し、ふたりは言い合いを続けた。
「〝自発的に″働いて身体を壊されたのはどこのどなただったか……」
「こいつっ!」
 一樹はついに我慢できなくなって相手の肩口あたりをバシッと叩いた。信は余裕の笑みでこちらを見て言った。
「ま、商売道具に手を出さないあたり、プロ意識はしっかりしてるみたいだが」
「こんのっ……! 今そんなこと言っていいと思ってんのかっ? 後悔するぞ」
「何、褥で仕返し? 器の小ささが露呈するぞ」
 そこで章介が立ち上がるのが目の端に映った。次の瞬間、首根っこをひっつかまれた一樹は信から引き離されていた。
「ふたりとも、いい加減にしないと本当に後悔することになるぞ」
 仁王立ちをした章介にそう言われ、一樹は反省しているフリをした。
「ごめんって。つい熱くなっちゃって」
 実は相手を笑わせるためにちょっとした言い争いを演じたのだが――信もそれを了解している顔だった――、ここのところ昔より更に気難しくなっている相手はニコリともしなかった。
「まったく――会えばケンカばかり……おれの立場も考えてくれ」
「悪かったって……えーと、和泉さま、すみません、ちょっと無理でした。いつもはコレで笑うんですけど」
 一樹のことばに、章介は目を見開いた。
「どういうことだ?」
 驚愕し凍りついている彼とは対照的に、和泉は機嫌よく返した。
「いいよ。面白いものが見れたし。なるほど、紅妃はそういう立ち位置なわけね、三人の中では」
「そうですね、最近は調停役ってところです」
「この子が本気で怒るところなんて初めて見たよ。新鮮でよかった」
 一樹は自分を、だましたな、という目で見てくる章介に目で謝りつつ、和泉と会話を続けた。
「昔はもうちょっと穏やかだったんですけどね、最近とみに怒りっぽくなっちゃって」
「それはふたりがっ……!」
 たまらず口を挟む章介を遮って和泉が言った。
「じゃあそのまま始めちゃってよ。面白い掛け合いのあとは、熱い睦み合いが見たいな」
「仰せのままに」
 一樹は答えると、固まっている章介の手を引いて奥に敷かれた布団の方へ連れていった。そして後ろからついてきた信にそこに身を横たえるよう命じた。
「最下位だったやつがそこ」
「はいはい」
 信はさして抵抗せずに仕掛けを脱ぎ、その下の着物に巻いていた帯を解いて袷を自主的に少しはだけさせると、横になった。一樹は動こうとしない章介の背を押して、お先にどうぞ、と言った。計画では、最初にちょっと絡ませたあとさりげなく端に追いやってやり過ごす予定だった。しかし章介は仰臥した信を凝視したまま言った。
「できない」
「ハァ?」
「だから、ムリだっ……! ふたりとこんなことっ」
 なるほど、こんなにウブな反応をされては客もたまらないわけだな、と思いつつチラッと和泉を見ると、案の定満足げに笑っていた。
「紅妃、どうしたんだ? せっかく友達と親睦を深める場を私が用意してやったのに」
「っ……すみませんっ、無理ですっ……! やっぱりできません」
 すると和泉は小卓の前の座椅子から立ち上がってこちらにやってきた。そしてその巨体で章介の身体を背後から包み込むように抱きしめ、布団の上に膝をつかせた。
「できない、じゃなくてやるんだよ。仕事だって割り切ればいい」
「っ………」
 そして章介の手首をつかみ、信の胸元に無理やり触れさせた。章介はビクッと身体を震わせて顔をゆがめた。
「はぁ……どうだ、感じるか?」
 章介もとんだ客を持ったものだな、と思いつつ一樹は三人を傍観していた。辛そうなようすの章介に、信が何か言おうか迷うそぶりを見せたが、彼は結局口を開かなかった。
 ふたりの手によって信の着物がはだけさせられてゆく。室内には和泉のつく荒い息の音だけが響いていた。
「たまにはこっち側もいいだろう? 愉しみなさい、相手が女だと思えばいい」
「うっ……信、ごめん……」
「だいじょうぶだ」
 信は優しく言って手を伸ばし、章介の背に回した。
「さ、あとは自分でやるんだ」
 和泉がそう言って章介から名残惜しげに身体を離したが、章介はその場に留まっていた。
「わっ、客観的に見るとお前ら結構ヤバイことしてるぞ」
「それを今言うんじゃない。その空気を〝読まない″クセを何とかしろ」
「〝事実″を言っただけですよ」
 章介に対する優しい声音とは打って変わって、ぴしゃりと一樹を窘めた信にそう返すと、章介がフッと笑った。
「本当にしょうもないな」
「あっ、笑ったっ! 和泉さま、今見てましたっ? 笑いましたよこの子っ!」
 和泉はとろけそうな顔で章介を見ながら頷いた。
「あぁ、バッチリ見たよ。なるほどねえ、君らと絡ませると笑うわけか。どっちかのこと、実は好きだったりしてね」
 すると電光石火で章介が否定にかかった。
「ありませんっ! 絶対っ、そういった邪な気持ちは一切っ!」
「そんな強く否定されると逆に疑っちゃうけどなあ」
「本当にっ、ないんですっ! だから嫌なんですっ! おれには旦那さまだけだからっ!」
 たどたどしく最強の殺し文句を口にした章介に、一樹は信と顔を見合わせた。
 和泉は暫時瞠目したのちに言った。
「うれしいこと言ってくれるじゃない。おれの方がいいの?」
 章介はブンブンと首を縦に振った。とにかく一樹や信と絡みたくない、という思いがありありと伝わってくる反応だった。
「そう……じゃあおれも混ざろうかな」
 立ち上がって近付いてきて、信から身を離した章介の腰に手を回し、キスを始めた和泉に、好機と思って一樹はさりげなく声をかけた。
「こちらをお使いください。では我々はこれで――」
 信と二人で布団から身体をどけ、章介の本部屋を辞そうとしたが、和泉に引き留められる。
「待って待って。そのままいていいよ。スペースはあるし。いてくれた方が盛り上がりそうだからさ」
 確かにキングサイズの布団は十分大きかったが、そういう問題ではなかった。言い訳を考えているうちにあっという間に和泉と章介がもつれ合って布団に倒れ込んだ。案の定、組み敷かれているのは武骨な友人の方だった。
「ホラ、こっち来て。おお、紅妃の反応がいつもよりいいなァ」
 一樹は信を見て、何とかしてくれ、と口パクをしたが、相手は首を振った。さすがの信も今回ばかりは良い手が思いつかないようだった。
 一樹は仕方なく布団に戻った。なんとなく下になるのがイヤだったので信を押し倒してペッティングをしていると、和泉が言った。
「随分感じてるじゃないか。友達に見られて興奮してるのか?」
 章介はほとんど聞き取れない声で否定した。押し殺された吐息と、堪えきれずに時折漏れ出る喘ぎ声に、一樹は大いに動揺した。これはマズイ、絶交もありうるかも、と焦りつつ必死に隣に注意を向けないように信と向き合って小声で言った。
「明日から口きいてくれなくなる可能性あるな、これ」
「とにかく〝見ざる聞かざる気付かざる″だ」
 信は深刻な顔でそう返すと、一樹に手を伸ばした。そして愛撫を開始しながら聞いてきた。
「そういえば坂口さまのお話、受けないのか?」
「いーや。囲われるとか絶対ヤだし」
 坂口というのは一樹の馴染みのひとりだった。半年前に一度身請け話を断ったにもかかわらず最近再び持ちかけてきた相手だ。
「でも……一生そうとは限らないだろう? 数年で解放されたっていう話も聞くし……」
「そんなん例外だろ……アイツ何か重いんだよ。自由に出歩けなくなること請け合い」
「…………でも、ここにいるよりはまだ………」
「ヤだね。おれは逃げねー」
「逃げるとかそういう話じゃないだろ……」
 一樹はものすごく真剣に言ってくる相手の胴体に手を滑らせつつ、首を振った。
「信との勝負もまだついてねーしな」
「勝負って………小竹さんに煽られて、いいように操られてるって、わかってるよな?」
「アイツは関係ねーよ。これはおれと信の問題だ。今月は自信あるぜ、おれ」
 一樹は隣のふたりが自分たちに夢中でこちらに一切注意を払っていないのを確認してから言った。
本当はもう、お職へのこだわりも、信へのライバル意識もほとんどなかった。そんなものは相手が大怪我を負った日に消えた。
あのとき――本気になった客に友人が刺されたとき、そんなくだらないプライドや見栄は捨てようと決心したのだ。そんなことを気にしている場合ではもはやないと思ったから。
 一樹は、観察眼が鋭く頭の回転が速い信が客の異変を見逃すなどという失態を犯したのは、自分の代わりのように働き出し、過労状態になってしまっていたがゆえだと確信していた。つまり、信のケガは自分のせいも同然だと思っていた。だからできる限り客を受け入れて相手の負担を減らすことで少しでも償うべきだと思って、何と言われようとも客を登楼らせ続けていた。
 そして、会えば小言を――ほとんど身体を大事にしろ、という一点に尽きる小言を――ガミガミ言ってくる信がその思いに気付いているくさいことに気付いてもいた。これだから聡いヤツは面倒なんだよな、と思いつつ、一樹は相手が自分の仕掛けを脱がせるのを手伝った。
「今日は? この後あるのか?」
 信の問いに、一樹は首を振った。
「あー、今日は終わりだわ。信は?」
「ない。部屋に行ってもいいか?」
 あからさまにホッとしているようすの信が聞く。見慣れてはいるが、ちょっと嫉妬しそうになるような容貌――一樹より顔の輪郭が鋭くてより男らしいのに童顔で、十人中九人の人間が〝男前″あるいは〝美形″と評するに違いない顔――がこうも間近にあると、何となくいつもとは違う感じに見えてくるから不思議だった。
「いいよ。というか、信にそのセリフ言われたいヤツって山といるんだろうなあ。でも言われてんのは下心が一切ないおれとか……無欲の勝利とはこのことだな」
「下心があったらちょっと困るな」
「フフッ、まぁ君が女の子だったら確実にストライクだけどね」
 そこで不意に隣を見てしまった一樹は思わず声を上げた。
「うわっ、ヤベェ、スゲーことされてる……」
「あんまり見るな。絶交されるぞ」
「だってさ、あんなトコに手が……あっ……! ついにっ……!」
「一樹!」
 信が滅多に出さない低い声で一樹を咎めたので、彼は渋々相手に目を戻した。
「ゴメンって! つい……」
「つい、じゃない。私たちは〝何も見ず、聞かず、気付かなかった″んだからな?」
「フッ……対局相手を失うまいと必死だな」
「一樹だって章介に見捨てられたら困るだろう? 始終私と一緒にいることになるんだぞ?」
「あーそれダメだ」
 身体を這い始めた相手の、いつも通り壊れ物を扱うかのような手つきに軽く息をつきつつ、一樹は続けた。
「ダメんなるおれ、たぶん」
 すると相手は訝しげに首を傾げた。そこで一樹は説明に入った。
「依存しちゃいそうってコト。なんつーか、信って底なしに優しいからさー、つい甘えたくなっちゃうんだよ。でも章がいつもクギ刺してくれるから保(も)ってるっていうかさ。今、バランスがいいんだよ。絶対章は必要なんだ。前科あるし、おれ……。ふたりになったら絶対おかしくなる」
 〝前科″というのは約二年前に、信が自分を出し抜いたのでは、という今考えてもバカな勘違いから一樹がしばらくの間相手に暴言を吐いたり無視したりした事件のことを指していた。
「それに、耳に痛いこと言ってくれるひとって、あんまいないしさ」
 信は頷いて、チラッと横で責められている友人を見た。
「大事にしないとな」
 そのとき、口を両手で押さえて漏れ出る声をできる限りブロックしようとしていた章介がその手を離し、ボソリと呟いた。
「聞こえてるからな」
 一樹と信はギクッとして相手を見た。散々和泉から言葉責めをされていたのに、こちらの会話もしっかり聞き取っていたらしい。一樹は作り笑いを浮かべて、何とかとりなそうとした。
「ゴメンって。でも悪口じゃないだろ?」
「………違う……ただ、除け者にされたくなくて……っ……」
 そこで和泉が章介を嬲っていた手の動きを速めたので、彼は背をのけぞらせた。
「ハハッ、イジワルしちゃってごめんね。でも何かちょっと妬けちゃったからさァ。やっぱ好きでしょ? どっち? 両方?」
「………」
 章介は首を振って答えなかった。それが余計に和泉を煽ったらしく、彼はますます激しく手を動かし始めた。
「うッ………」
「はぁ、もう三本も飲み込んでるよ、紅妃。ホラ、イヤらしい音、聞こえる?」
「……っ……」
「この辺りがいいんだよね? ゴリゴリいってるの、わかるだろう?」
 再び両手で口を塞ぎ、目を瞑って悶え苦しむ章介に、余計なことをしてしまったな、と反省しつつ、一樹は口を閉じて信への愛撫を再開した。信は一瞬殺意に満ちた目で和泉を睨んでから、同様に黙ったまま一樹の身体に再び手を這わせ始めた。
 ぐちゅぐちゅと響いてくる濡れた音に耳を塞ぎたくなりながら、ひたすら信に集中しようとするが、どうしても隣で貪り食われている友人の存在を意識の外に追いやることができなかった。
「こんなに濡れて、もう立派な性器だね。男なしじゃいられないだろう? 夜、身体が疼いてしょうがないんじゃないか? 後ろでオナニー、したことあるか? 気持ちいぞー。ホラ、自分で指入れてみな」
 和泉は首を振る章介の手首を掴み、無理やり後孔にあてがわせた。
「はぁー、入ってくぞ。目開けて見てみな」
 そのあたりで一樹は我慢の限界に達し、隣で友人をいじめる男にわざと身体をぶつけた。
「何するんだ」
「あ、失礼を。少し盛り上がってしまいましてね」
「もう下がっていいから。今日はどうもね」
 そのことばにホッとして、一樹は信の上から身体をどけ、友禅に袖を通した。同様に手早く仕掛けを身に纏った信が何を思ったか口を開いた。口もとには笑みを浮かべていたが、その目は凍るように冷たかった。
「では思う存分お愉しみください。最後の思い出に」
「今何と言った?」
 信の最後のことばを聞きとがめた和泉が動きを止めて彼の方を見た。信はそんな相手の視線を相変わらず微笑を浮かべたまま受け止めつつ、答えた。
「だって、今日が旦那さまの最後のご登楼になるかもしれないでしょう?」
「何の話をしている?」
 苛立ったように聞いてくる和泉に、信はとどめを刺した。
「紅妃は結構選り好みが激しいのですよ。お客様が白銀の門をくぐることができるのは今回が最後の可能性が大いにあるとお伝えしたまでです」
「だが、そんな権限……」
「あるんですよ、コレが。確かに紅妃は売れっ妓というわけではないかもしれませんが、彼は遣り手を味方につけているんでね」
「まさか、そんな気はないだろうな?」
 章介に目を戻して信じられないといった表情で聞いた和泉に、彼はぼそっと言った。
「あなたは、私の友人に迷惑をかけました……」
「ただの冗談だろう? この程度でそんなこと……」
「あなたは目が見えないのですか? 紅妃を見てください。〝冗談″で自分の敵娼(あいかた)をこれほど傷付けるひとがいますか? 我々だって人間なんですよ? 友人の目の前で貶められれば傷付きもするし、落ち込みもします」
 信は、もはや笑っていなかった。一樹がこれまで見たこともないような冷たい表情で客を見下ろしていた。彼が発散する静かな、しかしすさまじい怒気に気圧されたのか、和泉は口をパクパクさせるばかりで何も言えなかった。
「ま、せいぜい最後の逢瀬をお愉しみになることだ。……それから、言っておきますが、色子を〝物理的に″傷付けるようなマネをしたらフられるどころか出禁になりますからね。では、失礼致します」
 和泉にさらに追い打ちをかけてから慇懃に腰を折り、部屋を出ていった信を呆然と見ていた一樹はハッと我に返って辞去のあいさつをして、自分も廊下に出た。付け加えるべきことばなどなかった。
 

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