栄徳高校女子野球部! 本編 (完結)

あとがき 2017.9.5 更新

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<小説の「語り」の手法/キャラクター/世界観について>

 この小説(本編)では、視点がコロコロ変わります。いや、コロコロというよりもバタバタと言った方が正しい可能性があるほど、多くの人物によって語られます。これは、ヴァージニア・ウルフの「意識の流れ」から着想を得たもので、物語は、複数の視点から語られ、進行していきます。一人称は使われていませんが、一人称の語りと同様に、完全に当該人物の視点から語らせるようにしています。
 そのため、すべての情報には、本人独自のバイアスがかかっており、信頼に足る客観的な情報を提供してくれません。要するに、彼らは全員が「信頼できない語り手」(フォークナーが「響と怒り」で使った語りのやり方)です。(ただし程度は軽い)
 例えば、かつて横川和也のバッテリーであった荒川遊人は、21章「秋季大会3」において、前年、横川が教室で澤に「性的に」迫っているシーンを思い出します。そして、澤が横川のセクハラに耐えながら夏を闘い切ったことを思い、その澤が「守りたかったもの」だった榛名に、〝その期待には応えてやんなきゃだめだ″と心の中で語り掛けます。
 この横川とバッテリーだった時期に澤がセクハラをされていたのは事実ですが、しかし本人はほとんど気にしていません。
 〝向こうから告白されて、何となく自分も好きになって、チームメイトの枠を超えた関係になった。″(22章) 〝澤にとっては、横川の恋人としての半年間よりも、バッテリーとしての半年間のほうが悩みが多かった。″(24章)というアッサリ加減……
 横川の方は、〝……考えてみれば最初からダメだったんだ。お前の気持ちも確かめずに自分ばっか突っ走って強引に付き合わせて……″(24章)とか言ってるので、それなりにマズイことを致した自覚はあるようですが、澤にはそれがないです。(もうちょっと自分のことを大事にしてくれ……)
 更に重要なことには、荒川と横川が口論になった例の放課後に、横川は実際には不埒なことをしていたわけではなく、過剰に榛名に執着する澤を問いただしていただけなのです。→〝なぜか澤が異常にこだわる榛名に嫉妬し、練習後に澤を教室に呼び出して、一体全体どういった理由でそれほど彼女に執着するのかをムリヤリ吐かせようとしたりしたこともあった。
 その時は、元々バッテリーだった荒川遊人がたまたま居合わせたため、暴走を食い止めることができたが、――″(45章)
 つまりは、荒川の完全な思い違いです(汗)
 このように、「信頼できない語り手」の手法を使うと、何が真実なのかを見定めるのが困難になります。
 しかし、私は読者を混乱させたくてこういうふうに書いているのではなく、「人はその人が解釈した世界に生きている」と考えているためにこの技法を使っています。誰かにとっての真実が必ずしも他の人にとっても真実であることがないように、我々は、同じ世界に生きているようでいてまったく違うものを見、違うことを感じ、違うことを考えているのだと思います。
 
 視点の話に戻ります。「意識の流れ」的手法で、視点はコロコロ変わりますが、物語の複雑化を避けるために、完全に時系列とし、語り手が変わっても容易に話がつながるようにしています。(少なくともそのつもりです)
 語りを任されるキャラクターは全部で23人です。(本編のみ。榛名玲、羽生葵、金沢悠木、丹波ミサキ、小笠原龍、香坂迅、石神京香、二本柳沙羅、百合丘雅也、澤一樹、澤六佳、荒川遊人、桃井周、香坂秀実、香坂良、広末茉莉、倉田清加、右近飛鳥、横川和也、榛名瑠加、宮崎伊織、緑川順、金沢真季)
 単純に「語りの回数」で比較した場合、最も視点が多いのは、丹波で、全5859話のうち12話で語りを担当(2220%)、ついで主人公の榛名11話、同じく澤11話、そしてサイドライン担当の香坂迅と小笠原龍は共に6話(10%)、横川和也と石神京香が4話分(7%)となっています。
 数値的には丹波、榛名、澤が同程度となっていますが、登場時期には偏りがあり、榛名が物語の序盤を主導していくのに対し、澤は第14章の「甲子園1」まで出てきません。これには理由があって、澤というキャラクターを主役にしようというのは最初から決まっていたのですが、彼女があまりにも完璧すぎて、その内面を描くには、時間を要したからです。一時期は、最後まで彼女視点のエピソードは書けないかもしれない、と思ったほどでしたが、甲子園に出場したときに、やっとできるようになりました。
 しかし以後も、そして今だにそうですが、「澤一樹」という人物はあまりにも私とかけ離れすぎ、あまりにも人間として成熟しすぎているため、彼女が何を思っているのか、内面はどうなっているのかを書くのは困難です。そのため、彼女視点のエピソードは客観的事実の叙述に偏りがちです。
 それに対して榛名の方はまだ人間的な未成熟さがあり(俗っぽさや野心や欲望など)書きやすいです。
 しかし基本的に、自己中心的で俗物である、全然魅力的じゃないキャラクターは多く登場させていないので(横川と右近くらい?丹波は自己中心的ではないですが、冷酷です)その内面は想像でしかなく、リアリズムとは程遠いものとなっています。
 それでも「善人」を多くキャラクターに据えるのは、普段十分目の当たりにさせられている世界や人間の醜さを、小説の中でまで見たくないからです。私が描きたい、ないし読みたいのは、善行が報われ、悪が正され、不正のない、楽園のような世界の物語です。世の複雑さとか、報われなさは十分現実世界で体験しているので、表現する必要がないと思うからです。ひどく単純で、ご都合主義的かもしれませんが、そういう、自分が住みたい世界、なりたい人物を描くのが好きだし、頭を使わずにサラッと読める小説が好きなので、描きたいままに、読みたいままに書きました。

 また、書いていて一番楽しかったのは丹波、楽しくなかったのは横川、辛かったのは小笠原でした。
 丹波はとにかく明るく前向きで、人の言に左右されません。我が道をいく幸せ者です。モデルは高校野球漫画の「おおきく振りかぶって」の田島悠一郎くんと「ダイヤのA」の沢村栄純くんです。ふたりを足して二で割ったような性格です。

 横川は斜に構えて物事を見るタイプで、厭世的な上支配的な性格をしていますが、持ち前のカリスマ性で他人の前ではネコを被っています。あまりお付き合いしたいタイプの人ではありませんが、その性格の悪さが根っこの部分では人間不信や不安感に起因していることを考えると責めるのも可哀想かな、という気になってきます。
 本編ではほとんど言及されていませんが、彼女は澤と強引に身体の関係を結んで交際に持ち込みます。(一緒に出場した甲子園大会の試合後)澤は自己権利意識の希薄な人間なのでほとんど違和感なく受け入れますが、犯罪行為をされています。(スピンオフ11話参照)だから罰として早死にさせました。

 小笠原は私の分身です。少々上げ底ですが……。
 実は彼女と同じ病気を患っており、実体験をほとんどそのまま語らせています。だから、小説の中では一番リアリズムを追求できた語りだったと思いますが、彼女との心理的距離があまりに近すぎて、書くのも読むのも一番大変だったキャラクターです。
 他に、自分に自信がない石神や、邪悪なサディストの右近、平和主義で苦労性の羽生などが出てきますが、どのキャラクターも最終的には課題を乗り越え、悪徳に染まっている場合には改心し、報われたので良かったです。「善は必ず報われる」がこの小説のテーマです。(個人的には)
 しかし、解釈は人それぞれなので何通りもあっていいし、そうあるべきだと思っています。

 本編に着手してからのこの2年は、私生活でいろいろと大変なことがあった時期でした。しかし、そういうときでも、初めは自分で生み出したがやがて勝手に成長していったキャラクターたちや、彼らの織り成す世界が私を支えてくれました。そのことを通し、ヒトにとって、現実逃避のための想像力、ないし妄想力がいかに大切であるかを気付かされました。どんな状況下にあっても、自由な精神を持っていれば、ヒトは前に進んでゆけるのだと思います。
 本編は完結しましたが、番外編はもうしばらく書いていく予定です。
 少しでも楽しんで頂けたら幸いです。


                                                   2017.6.11  冬木水奈 


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