栄徳高校女子野球部! スピンオフ (更新停滞中)

5.投手の器3

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最初から、球を投げるのは大して好きではなかった。ただ速さとコントロールだけを求めて延々投球練習をするのには正直辟易した。周りの投手たちは、球速を一キロでも上げたい、とかいうようなことをよく話していたが、澤一樹は彼らに大して共感できなかった。唯一、球種を色々試してみるのだけは面白みを感じることができたが、それもそのうち飽きてしまった。
一番イヤだったのは、マウンドに立った時に背負わされるものの多さだった。絶対に失投できない、自分のせいで相手に点をやるわけにはいかない、というプレッシャーで、試合ではいつもヘトヘトだった。
登板を発表されると、それだけで目眩がし、試合を投げ出したくなった。発表が当日であれば、体調不良を口実に帰宅したくなり、前日以前であれば、自宅の布団の中で突発的な天変地異が街を襲うことを祈ることになった。――澤の祈りが天に聞き届けられたことは未だかつて一度もなかったが――。
特に終盤を任されるほどイヤなことはないのに、澤はよく終盤、最も大事な場面で出番が回ってきた。そういうとき、彼女は大抵、突如発現した吐き気や腹痛をこらえながらリリーフするのだった。

中学一年の夏の時点で既に、澤は、どうやら自分が投手に向いていないらしいことを悟っていた。周囲はそう思っていないようだったが、とてもこの先、投げ続ける気にはなれなかった。
だから、大会が終わってひと段落した頃に、監督にその旨を伝えて、捕手にコンバートさせてもらったのだった。
そのとき、外野でもなく内野でもなく、捕手になったのには理由が二つあった。
まず一つめの理由として、配球を組み立てるのが好きだったことがあげられる。澤は、野球を始めた当初から、スコアをつけるのが好きだった。小学生の頃からよく、自分が出ていない試合で記録係をやらせてもらい、試合の進行状況を逐一書き込み、そのデータをもとに、相手打者を分析して、それに見合う配球をあれこれ考えていた。
少年少女野球チーム、〝ゴールデンフェニックス〟の監督は、リードほど面白いものはない、とよく言っていたが、澤も全く同感だった。だから、投手だった時代も、配球は基本的に一試合通して考えた上で投げていた。
澤が捕手を選んだ第二の、そして最大の理由は、榛名と一緒に試合をしたかったからだ。投手と投手は、一緒に戦うことはできない。彼らは交代するだけだ、と澤は個人的に思っていた。連帯感がないとは言わないが、澤にとっては不足だった。
それに、榛名と〝1番〟を巡るライバル関係になる、という状況も、澤にとってはあまり喜ばしくなかった。榛名から発される、どことなく張りつめた空気が苦手だった。他の投手に対しては何とも思わなかったが、榛名と番号を取り合うのだけは耐えられなかった。
澤はそういうもろもろの事情で転向したのだった。榛名にはしこたま怒られたが、自分の判断が間違っていたとは思わなかった。そしてそのことは、球を捕り始めたそのとき、証明されたのだった。


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